徹夜明け。

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

 2005年の夏、僕はこの小説をきっかけに読書をするようになった。当時大学一年生だった僕は前期試験が終わるや否やムーンライトながらムーンライト九州を乗り継いで帰省した。その車中でそれこそむさぼるように夜を徹して読んだのである。この読書経験はそれまでほとんど小説を読むことのなかった僕にとって何物にも変えがたい経験となり、それは一種の自己変革をもたらすものであった。語弊を恐れずに言えば村上春樹の文体に侵されてしまっていた。それほど強烈なものであった。以来、彼の描く世界に惹かれ続けて今日に至る。
 数日前、ふと手に取り再読した。そこに綴られている物語は二年半の歳月を経てもなお色褪せていなかった。読書中、僕は夜行快速車内に舞い戻っていた。
 『1973年のピンボール』など他の作品は初めて読んだ後何度か手に取ったが、なぜかしら『海辺のカフカ』だけは手に取ろうとしなかった。その理由はたぶんこういうことだ。当作品が僕にとっての読書経験の原点だから。2008年1月某日、原点回帰を果たす。
 とにもかくにもとても重要な、大切な一編なのである。この小説との出会いに感謝したい。